仕事観■

おやじ　だいたいお前は、休みの日も家でゴロゴロしているか、デートをしているかで、やる気というものがさっぱり見えないな。偉そうに言っている割には、仕事にかける姿勢がさっぱり感じられない。オレなんかはな、若い時には会社のために働いて働いて、働き詰めたものだ。頑張りが肝心なんだよ。

若造　　ぼくの上司も頑張って遅くまで残業して働いているよ。

おやじ　その割にお前はずいぶん早く帰ってくるじゃないか？

若造　　だって、つき合う気にならないよ。どんなに頑張っても良い結果が見込めない仕事を、ただひたすら頑張っているだけだからね。結局赤字を増やすばかりで、意味のない仕事だよ。ところが本人は大まじめで、「専務、死ぬ気で頑張りますので」と言って張り切っている。

おやじ　立派な上司のようだな。

若造　　とんでもない。あれはぼくに言わせれば、「応援団」だよ。応援団員がいくら声を張り上げて応援しても、スポーツをやってる当人たちとは全然因果関係がないよね。だからゲームの勝敗にはまったく影響がない。だけど、「自分たちが身体をいじめ抜くことで、自分たちの仲間のチームが勝てるのではないか」と思い込めるんだね。ある種、呪術的なものなのかな？
　でもそれは、自分の組織に対する忠誠心を証明している以外の何でもない。専務にわざわざ頑張っている姿をアピールするところが、わざとらしよ。「ムダな仕事をするんだったら早く帰って家族と一緒に飯を食べろ」と言いたいね。

おやじ　何でもすぐ「ムダだムダだ」と言うが、お前は汗をかくことの尊さを知らないのか。

若造　　知らないねえ。いくら汗をかいても、成果が伴わなければ無意味だろ。「残業しても儲けにつながらないのなら、残業代の分会社に迷惑を掛けている」と考えないのかな？
　旧日本人を見ていて思うのは、全然「儲けよう」と思っていないってことだね。最初からあきらめて、本気で儲けることを考えてない。ただその時をその時を楽しく生きることだけを考えている。

おやじ　ほお、そうかい。頑張りには意味がないのか。じゃあ聞くけれど、お前にとって意味のある仕事というのは何なんだ？

若造　　よくぞ聞いてくれました。仕事というのは、「これはオレにしかできないものだぞ」という、オリジナルの新しい価値を生み出すことだよ。
　それは難しいことじゃなくてもよくて、どんな瞬間にでもできるちょっとした工夫でいいんだ。ただ「これは自分にしかできない」という部分を、みんなが追求していくことに意味があるんだよ。そういう新しい価値を生み出すためだったら、残業であろうが徹夜であろうがどんな苦しみも喜んで耐えられるね。