■市場軽視 / 市場尊重
おやじ お前たちは本当に薄情だと思うよ。会社に対してもそうだし、そもそも人と人とのつながりというのは、もっと微妙で大切なものだぞ。「袖擦り合うも他生の縁、つまずく石も縁の端」と言うだろう。相手を大切に思う気持ちというのが、商売の基本なんだぞ。
若造 その通りだよ。だけどぼくが問題だと思うのは、旧日本人が「相手を大切にする」と言っているときは、実はおためごかしで自分中心の発想のことが多いということなんだよ。
おやじ 何をいうか、お前たちのような尻の青いひよっ子にそんなこと言われる筋合いはない。
若造 そうかな、よく考えてみてよ。旧日本人が、「縁を大切にする」と言っているのは、単に長期的で継続的な取り引き関係を重視するだけではなくて、それまでに築き上げた「支配=従属関係」を維持しようということなんじゃない? つまり「相手を仲間うちのなあなあの関係の中に取り入れることで初めて安心してつき合える」と言ってるのと同じだよ。
それはつまり、「一回一回の出会いの都度、相手が持っているものを評価して信頼できる関係をつくる関係構築の能力がない」と白状してるのと同じじゃない。
おやじ ずいぶん辛口だな。ではそうだとして、どうしてどこの馬の骨ともわからない奴と、その場ですぐ関係を結ぶばなきゃいけないんだ。今までつきあっている相手がいるんだから、そいつらと取り引きすれば十分じゃないか。
若造 だけど今つき合っている取引相手よりも、もっと安くて良いものをつくる相手が新しく出てくるかもしれないじゃない。それを柔軟に評価して、常に取り引き関係を見直し続けるという姿勢がなければ、コストを引き下げることはできないし、競争力のある商品を市場に出せないよ。
それに、一社独占で商品を買い続けていた場合、その会社が他の会社に比べて高く売りつけることもあるんだよ。だから常に新しい業者の見積をとって値段や納期をチェックしてないとバカをみることになっちゃうと思わない?
おやじ 長年の取引というのはそういうもんじゃないだろう。お互い信用できる関係なんだから。
若造 そうだよね。うちの会社でもあったんだけど、購買部長と業者が癒着していて、割高な商品を長い間買わされていたこともあったし、購買担当役員になるとなぜかみんな新しい家を建てる人が多いなんてこともあるよね。よくよく聞いてみると、部長の息子がその業者に就職していたりして、「コネというのはこういうふうに使うもんなんだ」と感心することがあるよ。
おやじ そういう関係も、長期的にみれば実は会社のためになっているとオレは思うがな。あるいはまあ、そういうふうにうまくやる奴は いるんだから、こっちもうまくやらないといけないってことよ。