■市場軽視 / 市場尊重2
若造 違います。それは単なる不正です。私益を優先して組織にダメージを与えているだけです。背任的な許し難い行為です。
そして、そういう癒着がないにしても、一度取引をした業者ばかりを使いたがるというのは、単純に担当者の怠慢だと思うけどね。向上心がない人間は、そういう仕事の仕方をするな。
これはつまり、旧日本人は仲間主義、身内主義が頭の中にこびりついていて、ビジネスの目的や経済合理性をないがしろにしているということだよ。なぜ身内主義で安心しようとするのか、それは相手のオファーの価値を評価する能力を磨いていないからだ。「この条件は有利なのか不利なのか」あるいは「この新規取引先の言っていることは本当かウソか」を瞬時に判断する能力を持たなければ、安心できる取引先とやっていれば間違いないよね。あるいは、「もし騙されたとしても責任を問われにくいような身内の取引先」とか。
だけどそれじゃあリスクがとれないよね。新しい技術をいち早く取り込めない。それに「安全」が保証されている取引には、安全保証分の経費が上乗せされていると考えなきゃあおかしい。
そこを考えたら、身内主義の継続的な取引は経済的に不合理だよ。それよりも、できるだけ多くの新しい取引先と会って、一番いい取引条件を常に探そうとするはずじゃないか。そして「市場」こそがそのための場所なんだよ。
おやじ またしても市場原理主義か。われわれは今まででも十分うまくやってきているのに、市場なんていう新しいものを持ち込んでいままでの秩序を滅茶苦茶にしてしまおうとする陰謀めいた考え方しかと思えないな。
若造 そうとも。どうして旧日本人が市場を拒否するのか、話していてよくわかったよ。
旧日本人は仕事よりも組織論理を優先していて、いつも会社の中を見て仕事をしている。そして今までつき合ってきた「自分の仲間だ」と思っている人間としかつき合おうとしない引きこもり的な対人感覚しか持たない人種なんだ。だから不特定多数の初対面の人と情報を自由に交換し合う「市場」という場所に出ていくのが苦手なんだよ。
それから旧日本人は、オリジナルの価値をつくる能力に欠けているから、「自分の仕事の市場的な価値を知りたい」とは思わないよね。というよりも、市場とは「他の者たちと比較して、どの程度の値打ちがあるか」を決定する場所だから、そんなところに既得権を持っている旧日本人は「自分から出ていきたい」と思わないし、「市場自体を否定する方が今の自分の立場を守るのに役に立つ」と本能的に思ってるんだろうな。それはすごく正しいと思うよ。もし今のぼくの上司が、労働市場で値段をつけられるとすると、今もらっている給料をもらえるとはとても思えないからね。まあいいとこ半額だろう。
だから旧日本人は市場を徹底的に嫌うんだろうな。