■組織重視=責任感欠如 / 正常な組織感覚
おやじ 大丈夫だ、会社が続く限りは。そして会社は続くんだ。会社の命は永遠だ。人の命ははかなくとも、国破れて山河あり、常に人間の営為を見守り続けるものとしての会社が存在するんだ。
会社というのは、そういう大きな存在なんだよ。そして、その会社がつくってきた日本経済も、お前たちが考えるほどもろいものではない。そんなに簡単に崩壊するはずがないんだ。
それをお前たちは、明日にでも大暴落が起きるような話を言い触らして、人々に不安を与えていたろう。みんなの心の中の不安が、われわれの一番の敵なんだ。一枚岩になってれば強いのに、みんなが不安になるから、消費が伸びない。だからお前たちのような大局観のない、物事の本筋が見えない人間が前の不況の原因なんだ。そういうこともわかっていないだろう?
若造 ここまで政府や会社がボロボロになっているのに、まだ組織の神話を信じ続けるんだったら、もう何も言うことはないよね。われわれとは見解が違うということで、その話をこれ以上しても仕方がないと思うよ。「事実は何なのか」という認識能力の差だと思うけどな。
おやじ 自分の会社を信用できない人間が、社会についてどうこう言うということ自体がまちがっているよな。
われわれが気をつけなければならないことは、なによりも組織の中の調和を保つこと。波風を立てないことだ。それさえ気をつけていれば、毎年季節が巡ってくるように売り上げが立ってくるものなんだよ。
若造 「会社のために」というのは、旧日本人が自分の利益を押し通すための言い訳なんだよ。「会社のために」と言いながら、最終的には会社に損害を与える結果になるんだから。
部下から何か新しい提案が出てきた時、旧日本人管理職はそれが少しでも過激であると感じられたり、それまでの組織のルールを否定するような内容が含まれていたら、それを丸めることしか考えないからね。とにかく平穏を保つことしか考えないんだから。
おやじ お前たち若造が浅知恵で考えるようなことにろくなことがあるはずがないんだ。
そういうわれわれが理解すらできないくだらない提案を、少なくともみんなが理解できるレベルに調整することが、管理職としてのわれわれの一番大事な仕事だということは、それは非常にはっきりしているな。危なげないようにしておかないと、責任を取るのはこちらなんだから。
若造 それを「丸める」と言うんだよ。すさまじくワンパターンの思考回路だな。それで仕事をした気になってるんだから、こっちはたまんないよね。最初から責任なんか取る気もないくせに。
まあそこまで新しいことを嫌うのなら、仕方がないでしょう。だけどそれなら、「市場で否定された古い仕事をひたすら踏襲していて、どうやって売り上げを増やすつもりなのか」と聞きたいよ。ところが逆に、こっちに「どうしたらいい?」なんて聞かれちゃうから恐れ入るよね。
結局旧日本人は、「みんなで楽しくやっていければいいじゃない」としか考えてない人種だから。それはやっぱり「職場」というよりは、「生活空間」という感覚で会社に来ているからなんだろうな。
鬼上司にならない旧日本人は、「自分は部下の主張をとりまとめる立場でしかない。だからリーダシップなんて持たなくてもいいんだ。それでも部下は、地位の高い自分についてくるのが当たり前だ」と考えている場合が多い。
「上司たるものに会社から期待されている役割は一体何なのか」をまったく認知していないわけ。これはすごいと思うよ。だから平気で部下に、「どうすれば売り上げが上がるのかな?」なんて無邪気に聞いてくるんだけど、「それを考えるのがアンタの仕事だろう」と思うよね。「上司は仲間じゃないんだ、リーダーなんだ」ということを、部下の立場から動機づけるわけにはいかないじゃないか!
戦略を描くことができない人間が、年功だけで管理職になるのは、組織の競争力を恐ろしく削いでいる。ところが「どんな無能な人間でも、年をとると管理職になる」という異常さを、みんな平然と受け止めているというところが、旧日本型組織の怖ろしい病理なんだ。
見えない人には、その恐怖は全然見えないんだねえ。