■仲間主義=結果平等 / 実力主義
おやじ それはお前、仲間というものの団結の強さを知らないからだ。
みんなが打って一丸となって仕事に取り組めば、非常に大きなパワーが発揮されるんだ。抜け駆けの手柄は功名にはならんのだ。チームワークというものが日本企業の強さの秘密だ。だから仲間が大切なんだ。何か悪いか?
若造 それはねえ、企業の競争力が工場などの生産機能の優秀性にあったときには、安いコストで大量生産し、かつ不良品を出さないためのチームワークは大切だったと思うよ。だけど今の日本では、どんなに工場の生産性を上げても賃金コストが高いから中国や東南アジアにかなわないよ。なにか現場で付加価値を付ける芸がないとね。
いまわれわれに必要なのはむしろ、より付加価値の高い商品を開発し、ブランド価値を産み出せるような「価値創出能力」だと思うね。それは「他の人たちと同じことをしていればいい」とか、「前例を踏襲していればそれでいいんだ」という平凡な考え方からは出てこないよ。他人と違うことを恐れない、特異なパーソナリティーの中からしか独創は生まれてこないよね。
おやじ そんなことはわかっているよ。日本にも、かなり優秀で独創性を持った技術者がいるじゃないか。
ソニーが世界中で受け容れらたのは、その技術力の高さがあったからだし、バイオとかナノテクとか、いろいろな分野で日本人は頑張っているぞ。それに青色発光ダイオードをつくった中村修二氏のような人もいるし。日本の技術力は捨てたもんじゃない。これがある限り大丈夫だ。
若造 だけど中村氏は、世界的にすごい発明をしたのにほとんど報酬がもらえなくて、会社を訴えたよね。ギリギリまで苦しんで考えに考え抜いてできあがった発明を、会社が当たり前のように取り上げて、それで得た利益に社員が大勢ぶら下がって養ってもらい、しかも報酬はその技術を発明した本人と全然変わらないというのでは、だれがすき好んで開発の苦しみに耐えようと思うかな。
よほどの物好きじゃないと、そんなことはしないよね。
おやじ お前たちは、何事も損得で考えるからいかん。会社にいる社員は、全員仲間なんだから、待遇の格差などをつけてはならない。我が喜びに友は舞い、友の喜びに我は歌う。みんな仲良く。仲良きことは美しき哉。みんな一緒だから、平等だから、チームワークが最大に発揮されるんだ。
だから待遇格差をつけないというのは日本人の知恵なんだ。みんな良くも悪しくも平等であることがいいことなんだ。
若造 同僚を選んだのはぼくじゃなくて会社だ。自分が選んでいない相手と、どうして運命を共にしなければならないの?