■組織学習軽視 / 組織学習を実践
おやじ 若い者の方が表現力があるのは、当然だろう、それぐらいのことは上司をサポートしてやってもいいんじゃないのか。われわれの年代で部長以上の人間で、文章を自分で書いている人間なんてほとんどいないぞ。仕事は部下にどんどん降ろしていくのが管理職の正しい態度だからな。部下に訓練の場を与えてやらなければ。
昔から、「駕篭に乗る人担ぐ人、そのまた草鞋をつくる人」と言って、人間地位が上がっていくと素直にカゴに乗って担がれるのが正しい姿だとされているんだ。トップがのこのこ出てきて、具体的な自分のアイデアを説明したりしたら、部下が迷惑するだろう。
若造 そうかといって、部下が出してくる新しい提案を取り上げるわけではないんだよね? 提案の中身が理解できないので、つぶすか丸めるか歪めることでしか自分の存在感を示せないわけだから。それじゃあ邪魔以外の何でもないんだよ。
あのね、ビジネスマンはゼニカネの計算さえできればいいというわけではないと思うんだ。そのゼニカネを生むのはビジネスモデルであり、どんなビジネスモデルも個人の頭の中からスタートしてるんだから、まずアイデアを構想してそれを人にきちんと説明できなければ何事も始まらないでしょう。つまり逆に言うと、新しいアイデアを産み出し実行する力を持っている人は、ちゃんと表現力を磨いてきている。そして何事でも、積極的に自分の考えを人に伝えようとするオープンな姿勢を持つ。
そしてそういうアイデアを自分でつくった経験のある人間だけが、部下が出してきた提案の価値をきちんと判断することができるはずなんだよね。「ここはいい」とか、「ここを直せ」「ここはこうした方がうまくいく」とか、そういう的確な指示をわれわれは待ってるんだけど。
おやじ そんなこと言われると、オレの同期の人間なんかは、そんな新しいビジネスを立ち上げるような手柄を立てた奴は誰もいないんじゃないかな。
若造 部下は上司をよく観察してるからね、上司の能力は部下には筒抜けなんだよ。だから「こいつには言ってもムダだ」と思ったら、もう部下は上司のところに情報を持っていかない。
おやじ それではますます、組織の情報力が弱くなってしまうじゃないか。
若造 それはおっしゃる通り。だけど情報力の大切さがわかってるんだったら、自分でデータベースに入力して情報共有するのはやって欲しいよね。そしてうまくいったことはみんなに伝えるし、失敗したら原因を分析して二度と同じ失敗をしないようにみんなで共有する、そういう値打ちのある情報をまとめてノウハウのレベルにまで高めるという組織学習を常に意識してい欲しいなぁ。
これは本当は、組織のトップが率先しなければならないのに、旧日本人は「仕事のノウハウを貴重なものとして伝えたり、学習したり、ノウハウを開発していこう」という姿勢にまったく欠けているからね。
「知」は価値をつくる元であり、企業の競争力の源泉なんだよ。