ネットワーク運営力
■癒着・従来の経路依存 / ネットワークの本質を知る
若造 次は、「ネットワーク運営力」です。
おやじ なんだよ、まだあるのかよ。
若造 とんでもない、これは旧日本人には徹底的に欠落しているものだよ。まるっきり、カケラもないよ。
おやじ 偉そうに。要するに「人脈」のことだろう。そういうのこそ、われわれの世代が一番得意としていることなんだから、お前たちの出る幕じゃないんだ。
若造 その旧日本人が得意な人脈というのは、「自分と利害を同じくする仲間をつくる」という意味でしょう。
おやじ そうだよ、当たり前じゃないか。仕事で一番大切なのは人間関係、それができてナンボなんだ。
若造 すなわちそれは、「癒着」なんだよ。「自分と利害を同じくする仲間が世間からどれだけ収奪できるか」という、力と力のぶつかり合い、ぶん取り合戦、共犯関係、それが旧日本人の意味するネットワークだね。だけどそれは、単なる部分最適化であって、どれだけ社会的な価値をつくっているか疑問だね。
おやじ ほう、そうかい、そうするとお前たちが言うネットワークとは、いったい何が違うんだ。利益を同じくする以外に、仲間になる必要があるのか?
若造 いや、そうは言わないよ。ただし、ぼくらが言うネットワークは、固定したもたれ合い関係をつくるのではなく、あくまでも独立した利害を持つ個人が、お互いの立場を侵すことなく、共働して「新しい価値」を創り出し、それによってお互いにメリットを得られる高度な人間関係の連鎖のことなんだよ。
おやじ 何を言ってるのか、さっぱりわからんな。いったい何がどう違うんだ?
若造 まず、個人と個人の関係であるということ。会社の看板同士での関係ではないんだよ。そして、かなり自由に組み替えができること。取り引き一回一回ごとに新しいパートナを見つけるという感覚が必要だと思うんだ。関係を固定化すると、「競争原理」が働かなくなるからね。
おやじ また、競争か。よっぽど競争が好きなんだな。だいたい、固定的な関係でなければ、人脈といえないじゃないか。それに「それまでの取引を断る」ということは、相手の顔をつぶすことになるよな。それはちょっとまずいだろう。人とつき合う中でなにより重要なのは、仁義やメンツだ。それをないがしろにするのは、世間的に絶対に許されないことなんだぞ。その基本をゆるがせにしてどうやって信頼関係をつくるというんだ。
相手のメンツを一度つぶしてしまったら、よほどのことをして詫びないと、二度とつき合ってもらえないぞ。それどころか、周りの人からも「あいつは渡世の義理がわかっていない奴だ」と言われて退けられてしまう。誰も相手にしてはくれなくなるんだ。
それは果たして、本当の信頼関係なんだろうか。相手に裏切られるのが怖いから、仁義やメンツでお互いをがんじがらめにしているだけじゃないの。