■癒着・従来の経路依存 / ネットワークの本質を知る2
若造 それは果たして、本当の信頼関係なんだろうか。相手に裏切られるのが怖いから、仁義やメンツでお互いをがんじがらめにしているだけじゃないの。
本当にそういう関係をずっと続けていって、一番よい取引条件になっているんだろうか。下手をすると、時代遅れで質が悪い商品を買い続けるだけになるんじゃないの? もし、他の業者がもっと安くて機能が優れた商品を開発すれば、そこに乗り替えるのは当然じゃないか?
おやじ それでは騙される可能性があるだろう。
それに商売というのはそんな簡単なものではなくて、時には向こうに泣いてもらい、時にはこちらが相手の言い分を呑んでやるという、「貸し借り」が非常に大切なんだ。そうやって、お互いの「信用」ができてくるんだ。そしてそのように信用できる相手に対しては、身内として細やかに気を配る必要がある。それができるようになって一人前の大人ということなんだ。
若造 それはおかしい。取引はお互い納得ずくで一回ごとに決着をつけるべきで、貸し借りを発生させるべきではないね。
一回ごとの取引でよい条件を出すからこそ、「この相手は信用できる」という話になるのであって、「今回はうちが泣いときますから次回よろしくお願いします」と言って入り込んでくる相手とは、お互いが自立した取引関係はできないよ。よく公官庁へのコンピューターソフトの入札で、一円入札が問題になってるけど、「泣いてもらった」という事実は、そこの商品の優劣とは何の関係もないことだからね。それを単に貸しをつくることでクリアしようというのは、かえって信用ができない相手であることの証明じゃないか。
おやじ だから、人間関係には、そんなに簡単に白黒をはっきりつけることはできないということがどーしてもわからないんだな、お前たちには。
若造 貸し借りが恐ろしいのは、お互いどのくらい貸しがあるのか、どのくらい借りているのかよくわからないという点だよ。とにかくわけがわからないけれど、お互いが逃れられない関係にあるということだからね。
それが相手とのずぶずぶの関係になるのも、旧日本型組織の中ではよくあることだ。総会屋なんていうのはそうやって企業に食い込むんだよね。なぜそうなってしまうのか、取り引きを一回ごとに精算しないから、白黒の決着をきちんとつけないからなんだよ。
借りがあるんだったら、さっさと返す。貸しがあるのなら一刻も早く回収する、それだけのことじゃない。ひょっとして、これだけ不良債権が溜まったのも、「相手に貸しをつくっておこう」とする文化的な要因が大きかったのかもね。まったくの談合体制だな。相手が信用できないから発達してきた、未熟な前近代的な方法としか言いようがない。
おやじ それと、お前が言っている「ネットワーク」といったい何が違うんだ。なんだかんだ言っても、ネットワークを組むということは「仲間を大切にする」ということじゃないか。
若造 違うよ、まず誰がどのような資源や能力を持っているのかを知っておくことが大切なんだよ。そしてお互いがメリットを得られるような状況になったら、パッと関係を組みかえて、対応できるようにしておくことが肝心なんだ。
とにかく、人間は一人では何もできないから、いかに会社の中でも外でもネットワークをうまくつくっておくか、オープンなネットワークを構築する能力がこれからのビジネスでは大切なことなんだよ。「義理人情よ、さようなら」ってところかな。
おやじ 会社には、秩序だった組織と指揮命令系統があるだろう。それを飛び越えていったい何をしたいというんだ。