■利益動機不在 / ビジネスとは付加価値である2
おやじ 経営者がまず第一に考えなきゃいけないのは、社員の生活だよな。
若造 経営者がまず第一に考えるべきことは、「どうやって儲け続けるか」だよ。利益を上げるためにあらゆる努力を払うのが経営者の仕事。
おやじ それじゃあまりにもつまらないじゃないか。自分の周りにいる社員たちの幸せを考えるのが、人情というものだろう。
若造 人情と経営は別ものだよ。目の前の仲間にいい顔をしたいからといって、将来への蓄えを彼らに渡していたら、会社自体が成り立たなくなっちゃうよね。そこには冷徹なビジネスセンスがなければならないんだ。
おやじ しかしそれだけでいいのか? これからは、環境も重視しなければならないし、社員の雇用維持や地域貢献も企業に求められていることだろう。
若造 そういうのは、まず株主が納得できるぐらいの配当が出せるようになって、初めて気にするべきことであって、赤字のくせに「企業市民として環境を重視する経営をします」などと言っても、笑われちゃうよね。
それは言い訳にしか過ぎない。株主の立場にしてみれば、配当も出せないしこれ以上持ち続けていても株価が上がりそうにない会社の株は売り払って、ほかの会社の株を買った方がいいんだから。儲かる会社に資本が集中するのは、資本主義社会においては当然のことだね。
株主が環境重視や地域貢献に注目しているのは、「そういう意識の高い経営者の会社が将来的にも伸びる」という統計データがあるからであって、そもそも経営力がない人間がお為ごかしに「環境環境重視」なんて言っても、笑われるだけだよ。
おやじ しかしお前、そんなどうやって儲けるかなんていうことは平社員が考えることじゃないだろう。それこそおこがましいぞ。
若造 ぼくの上司もそう言うよ。だけどそれは違うだろう。社員全員が「どうやればより利益を上げられるか」を考え続け、工夫する必要があると思うね。
ところが現状はその反対で、旧日本人社員はビジネスの上で何かの決断を迫られた時に、経済的な条件を最優先事項として考えようとしない傾向がある。むしろ、上司や仲のいい取引先の担当者との人間関係から物事を考える。だからムダを切れない。
おやじ オレはそこは、仕方がないと思うんだな。人間やっぱり信用が大切だから。
若造 それについては、もうコメントをしません。
ただ違う角度から考えると、旧日本人は公的支出に関してもものすごくルーズな考え方をするよね。役所がやる仕事に関しては、自分の懐が直接痛まないからといって、橋でも老人ホームでも、学校でも「なんでもくれくれ」の大合唱。だけど、受益には負担増があるわけだから、結局ツケは自分たちのところに回ってくるんだ。そこのところの感覚は完全に麻痺してるよね。
会社でもその延長で判断していて、「会社が買うものであればケチケチしてもしようがない。むしろ経費を使えることは、自分の地位が高くて力があることを示している」とばかりに、野放図に物を買っている。締めるべき部分を締めずに、売り上げは減っているんだから、儲からないのは当然だ。
「少なくとももう少し儲けなければいけない、儲からない仕事や組織はムダである」という意識を持つべきだよ。その基本は、「会社は本当は自分たちのものではなくてオーナーは株主であり、自分たちの役割はその株主のために利益を出すビジネスを行うことだ」ときちんと認識することだと思うよ。