■リスク感覚不在 / リスクコントロール
おやじ それはごもっともではあるんだが、今の世の中、何事をするにもリスクが大きすぎる。特に会社を辞めるというのは、サラリーマンにとっての最大のリスクだ。われわれは会社を離れては生きていけないと思ってるんだよ。だからそんな思い切ったことはとてもできないんだな。
若造 でもね、ビジネスというのはリスクとリターンを追求していくことなんだよ。リスクを避け続けていてビジネスはできない。
管理職であれば、会社の持っているお金や社員という資源を他に振り向けず、自分の決定に従ってそれらの資源のチャンスを奪うというリスクをとりながら、十分なリターンを出せなければならないわけでしょう。そういうセンスを常に磨いていかなければ、国際競争の中でビジネスに勝てるはずがないとぼくは思うけどな。
おやじ それはいいんだが、なにしろわれわれの世代はリスクというものは嫌いなんだよ。だから株よりも元本が保証されている銀行貯金の方が安心できるんだ。ペイオフ導入には驚いたよ。定期預金すらリスクがあることになってしまうからな。
若造 もしそんなにリスクが嫌いなんだったら、少なくとも決定権を持つ立場からは退いてほしいというのがぼくたちの本音だね。
旧日本人が今やっているのは、根本的な解決方法を考えることすらできないがゆえに、とにかく現状に対処するだけの対症療法としてのリストラでしかない。確かに人を減らせば一時的に利益が出るよ。だけど来年以降の増益を考えると、何の材料もない。商品が売れているわけじゃないんだから、アメリカの景気回復頼みだ。そうすると、ヤバイところにつぎはぎを当てるバンドエイド作戦には限界があるよね。
本当にやらなければならないことは、リスクをコントロールしながら、いかにして儲かる企業体質を回復するか、そのための経営戦略の転換だよ。
「ノーリスク・ノーリターン」なんだから、変化を否定せずに新しいことにトライする姿勢が必要だね。
おやじ 正直なことを言うと、現状では日本企業にそれができるとは思えないんだよ。だからつぎはぎで対処しているのが現状だ。もしお前が言っている方向性が正しいとしても、その軌道に乗り移れるかどうかはわからないな。
若造 そして今までの旧日本人のパターンだと、そう言いながら行き着くところまで同じ路線で行って、「どうにも打開策がない」という状況に追い込まれると、「大和魂」みたいなわけのわからない精神論をあてにしてガムシャラに結果を考えず突き進み、大変なダメージをこうむってしまうよね。神風アタックだよ。だけど、どうせそれをやるぐらいたったら、もっと理性的かつリスクの少ない方法で打開を試みるというのもいいんじゃないかな。
どうもぼくは、このまま旧日本人の主導する方向に進んでいくと、今度は日本発の世界恐慌という形で、世界を道連れにした破滅に向けて進んでいるように思えてならないんだ。
ぼくはその巻き添えにはなりたくないんだけど、わかっていて押し止めることができないんだからどうしようもないよね。無力感だけを感じているよ。
おやじ 恐ろしいことだが、今まで日本人は追い詰められると、そういう自殺的なことを繰り返してきたのは事実だな。つぶれかけのゼネコンの社内では、「もうどうでもいいや」とばかりに経費を使い放題にしているという話も聞くし。まあそれはあんまりだが、ではどうすればそういう危機に陥らずにすむんだろうか?
若造 そのためには、一人一人の人間がビジネスマンとしてまともに行動できるようになるしかないと思うよ。その積み重ねが企業行動に反映して、経済の流れをつくっていくんだから。
ぼくは、そういうビジネス・マインドを持っていないサラリーマンが多すぎるように思うね。