日本はいつ「豊か」になったのか
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 そういえば僕が覚えているのは、1983年に大学に入ってすぐの時に、中軽井沢の方に早稲田には分不相応なセミナーハウスがあるんですよ。そこにクラスのみんなと遊びに行った時に、夜中に激論になったのは、僕は「もうすでに日本は豊かになった」と主張したんですよ。今では、「日本は豊かだ」という意見に反論する人はあまりいないでしょう。
飯坂 そうですね。
運営者 ところが83年の時は、20人くらいの学生がいた中で、私だけが「日本は豊かになった」と主張していて、ほかの連中はみんな口を揃えて「日本はまだまだ貧しい」と言っていたわけです。
確かにね、知り合いの雑誌編集長が、修学旅行で紫雲丸に乗ったっていうんですよ。つまり紫雲丸事故で瀬戸内に沈んで大勢の修学旅行生が死んだんだけど、それをまた引き揚げて、しばらく使っていたらしいんですね。そのころはまだ、日本は貧しかったのはまちがいないですよ。でも80年代になったらねぇ・・。
飯坂 「ふぞろいのリンゴたち」というドラマがあったじゃないですか。何年か前に再放送で見て、「あの頃こういう時代だったんだなあ」と再認識したのは、中井貴一の実家は豊かじゃない酒屋だとか、時任三郎が持っていたのは10年落ちのカローラだったりするわけです。
運営者 僕は、その時点で「日本は豊かだ」と主張していたのだからよほど貧乏性なんでしょうね。
飯坂 いやその時でも、日本が豊かであったのはまちがいがないです。国民総生産世界第2位の国になってから10年以上たっているわけですから。左巻きの人たちにとっては、認めたくないだろうけど。
運営者 だけど当事者たちは、みんなそう思っていなかったみたいなんですよ。だけど僕はその時、日本が豊かになったことからみんなの中に慢心があるように感じていたんです。貧乏性だから。
飯坂 ひとつは、見栄というものがあると思うけど。
運営者 もうひとつは、当時ノーベル賞を受賞したブキャナンが『赤字財政の政治経済学』で書いたように、国家は限りなく膨張するリヴァイアサンだから、これだけ「財政赤字が大変だ」と言いながら、水深4000メートルの海底から、さらに7000メートルも地下を掘ることができる深海掘削船なんてものを持っている国は日本だけですよ。軍事でもないのに、正気の沙汰かと。
飯坂 そこまでいかなくても、無理やり温泉を掘るために1本一億円以上かけて日本中で何百本もボーリングされているというのはどういうことよ。日本以外では、そういう技術は石油掘削以外には使っていないわけですから。
それで温泉が爆発して死人が出てるんじゃあしょうがないでしょう。
運営者 それを「無駄なことだ」と客観的に考えことができるというのは、ひとつの能力だと思うんです。
温泉は「経済的に成り立つだろう」と思われるから掘削されているのでしょうが、その経済的な見立てを超えて、「経済的に成り立つとしても、これは本質的に意味がない」と喝破することができる能力ですよね。