「会社は誰のものか」一般認識の根本的誤解
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 大企業の経営者たちは、自分の地位を保つためには92年以降ずっと、自社の資産の切り売りをやらなければなりませんでした。
それまで営々と築き上げてきた先人たちの遺産を全部売ってしまったわけです。ある大企業の企画部にいた友人が95年頃、「うちの会社、自分が入社してからずーっとリストラをやってるんですよ」と嘆いていたのを思い出します。その会社、今では笑いが止まらないほど儲かってるみたいですけどね(笑)。
飯坂 でもそれは、持っている必要がない資産だから売ってしまったのでは。
運営者 株主からすると、ぜんぜんそういうことにはなりませんよね。「それはおれたち株主のものだろう。何で勝手に売ってるんだ」ということになるじゃないですか。
飯坂 なるほど、配分の問題は当然ありますが。何十年も前に買ったような資産を、簿価のままで放置しておいて、それを不良債権の穴埋めのために使うのは、株主からすれば冗談じゃないですよ。配当に回すのが当然なわけで。
運営者 その通り。株主が経営監視していなかっただけのことかもしれませんが。
そういえば、ぼくが以前勤めていたプレジデント社でも、90年代の後半に、何十億円だったかなぁ、内部留保があったわけですよ。
親会社のタイムが、そのお金を「一瞬貸してくれ、すぐに戻すから」と言ってきたんです。その時に役員が、他にわかる人間がいなかったので僕のところに来て、「岡本君、親会社がカネを貸してくれと言ってるんだけれど、どう思う?」と聞くので、「貸してあげればいいですよ、ちゃんと心配しなくても返ってきますから」と答えたんです。
その時に役員が言ったのが、「でもこれって、われわれのカネじゃないか」と(笑)。
それで僕は、「いえ違いますよ、このカネは株主のカネなんですけれど」と答えたら、役員は、「だけどおれたちが稼いだカネだぜ」と。
「いや、稼いだのはおれたちかもしれませんけれど、このカネの持ち主は株主なんだから、貸してくれと言ったら断る理由はありませんよ。しかも返してくれるって言ってるんだから。取り上げられても文句は言えない立場なんですから」と言ったら、「そーなのかなー?」と、全然腑に落ちない顔をしてるんですよね(笑)。
日本企業の経営者や社員が「うちの会社」とよく言うその「うちの会社」とは、そういう意味ですよ。自分がオーナーでもないのに、「マイ・カンパニー」と恥ずかしげもなく言える感覚がありますね。だから資本主義じゃないんです。それが90年代後半までは日本人の当然の意識でした。
飯坂 そうでしたね。