自らの信ずるところにより職責をまっとうせよ
インタビュアー 飯坂彰啓
運営者 たとえば会社法には、各取締役は3カ月に1回、自分の仕事について取締役会への報告義務があるわけです。これちゃんとやってるか?と。重要な事項は取締役会に報告させて、役員が相互に監視するというのが会社法の理念じゃないですか。だけど報告がないと監視機能が果たせない。
飯坂 内閣で考えるとわかりやすいですよ。大臣というのが執行役員なんだが。国会の場合は相互会社のようなもので、社員相互の互選によって社長である総理大臣が選ばれて、総理大臣が執行役員たる閣僚を指名するという感じで考えればいいのかな。
伊藤博文が自分で憲法をつくって初代内閣総理大臣になったときには、こんなふうになるとは考えなかっただろうね。
運営者 そうですね。伊藤博文の最大の失敗は、統帥権を内閣から切り離して、天皇にくっつけてしまったことですよ。
飯坂 山形有朋に遠慮せざるを得なかったからね。
運営者 それが、統帥権干犯問題や、軍部大臣現役武官制を通して、軍部の暴走を招いたでしょう。しかし伊藤は明治欽定憲法を作った時に「将来如何の事変に遭遇するも・・・上元首の位を保ち、決して主権の民衆に移らざる」と書いていますよ。
天皇や天皇の藩屏たる官僚から実権を民衆には譲らないという物凄い決意ですよね。
飯坂 官僚とともに、政治家も官僚の範疇に押し込めてしまおうという意図があったんだろうね。
運営者 自由民権運動の暴発を目の当たりにしながら作った憲法ですから。
それともうひとつ、日本人に理解されないものに、独任制というものがあります。
行政機関などが一人の人で構成される制度のことです。大統領とか、知事とか、市町村長とか、検察官とか、監査役もそうなんですけれど、これだと自分ひとりで勝手に他の機関に拘束されずにいろんなことができるんですよ。
だけどいかに閣僚の任免権が総理にあるにせよ、あるいは役員が社長に指名されるにせよ、閣僚や役員は他人から独立して、自らの信ずるところによって判断を行い、職責をまっとうすることが要請されていると考えるべきですよ。
これ、「自分は聖書と己の良心以外のものに縛られない」という、ルターの到達したレベルですよ。大半の日本人は、ここまで行っていないんです。
「いちいち社長の顔色をうかがって何かするな」ということです。仕事上ではそれでもいいかもしれないけれど、役員会に出てきたら、平等な1票を持つ者として、相互の利害に影響されない立場として、相互牽制を働かせてもらわないと困りますよね。社長はボスじゃないんだから。ものすごいベーシックな話ですけどね。
飯坂 でもそのベーシックな議論が理解されてないからね。
運営者 通じませんねえ(笑)。
「お前は俺が役員にしてやったんだろう」と社長に言われちゃうわけで。
飯坂 人治主義の世界では、ボスの言うことは絶対だからね。
運営者 だから委員会設置会社では、取締役の過半数を社外取締役にすることが求められているわけです。