誇るべき国柄は制度疲労の名の下にいとも簡単に両断された 藤原正彦先生論文「国家の堕落」を読む
読書仲間 飯坂彰啓
運営者 それで「市場原理主義を至上のものとする新自由主義は、決して学問的に確立されたものではない。ハイエクやフリードマンの提唱した学説にすぎない」と書かれています。
飯坂 それは何だってそうですよ。
運営者 例えばケインズ政策だって、ケインズが提唱した単なる学説にすぎなかったけれど、それによってアメリカは不況を脱することができたということはありますね。あるいはレーガン政権のときの合理的期待形成学派とか。
飯坂 ユークリッド幾何学にしても、ある前提の下に成り立つべき公理の下に組み立てられたものであって、その前提が成り立たない場所ではユークリッド幾何学も成り立たないというようなことを、数学者であられる藤原先生はおっしゃりたいのかな。
運営者 僕はもうひとつそこに、数学者の奥ゆかしさを見ますね。数学者は、「数学の学説というのは現実に影響を与えてはならないのだ」と思っているのでしょう。だって学説に過ぎないようなものを政策に取り入れるのはけしからんとおっしゃっているわけですから(笑)。
飯坂 どんな経済学説でも、あくまでも現実とは完全には一致しないモデルにすぎないからね。それは厳密に定義された学問たる数学とは違いますから。
運営者 やっぱり学問なんてのは、現実社会から隔絶された象牙の塔の中にいなければならないのでしょう。
飯坂 しかしそのセンで行くと、相対性理論だってアインシュタインが唱えた単なる学説でしかないわけですよ。いまだに反証を試みる人がいます。
運営者 ということは、藤原先生のような考え方をみんながもっていれば、相対性理論のような学説から「原子爆弾ができる」などということは、だれが考えついただろうということになりますね。
飯坂 まあ、アインシュタインが原爆開発にかかわったわけではありませんがね。レオ・シラードがルーズベルト宛に書いた原子力開発を訴える手紙に箔をつけるため署名したことが原爆開発のきっかけになったことは事実でしょうが。原爆なんてものは、「本質」をわきまえないアメリカ人が十分に吟味せずに勝手に作ったものなんでしょう。
運営者 当然ですよ、学説と現実の間は隔絶されているわけですから。そういうふうに理解すればいいんだ。アインシュタインは悪くないわけですよ。自分が無罪だと知っていれば、彼は平和運動をやる時間を研究に注ぎ込んだだろうに・・・。
次に先生は、「古くから誇るべき国柄は制度疲労の名の下にいとも簡単に両断された」と書かれています。先生がおっしゃっておられる国柄の意味が何なのかよくわからないのでよくわからないのですが、どうやら改革をするということは、藤原先生がおっしゃっておられる国柄を切断することとイコールのように受け取れる文章ですね。
飯坂 「古くからの誇るべき国柄」というのが何を指しているのかよくわからないけれど、少なくともなめらかな曲線を描いていたものが、改革した時点で不連続になってしまったという意味なんでしょうね。
運営者 なるほど、数学者の言うことは難しいですな。文系の私にはチンプンカンプンです。