「たかが経済」と一喝する真の指導者がいなかった 藤原正彦先生論文「国家の堕落」を読む
読書仲間 飯坂彰啓
運営者 次に、藤原先生は
経済不況に国民が狼狽し、長期的視野や大局観を見失ったのである。「たかが経済」と一喝する真の指導者がこの国にはいなかった。
これが大きな問題であったと喝破しておられます。
やっぱり経済なんてたいした問題じゃないんですよね。そうすると他になにがたいしたものなんでしょうか?
おそらくこの辺は前置きなので、この論文の後半に出てくるんだと思うんです。少なくとも藤原先生は「たかが経済」だと思っておられることを押さえておきましょう。
さらに次に、株主中心主義の問題が論じられています。「長期的視点に立って会社を考える余裕はなくなる」というのが藤原先生が問題視されておられることのようです。
ですけどねぇ、僕が新日本人論で話してきて思ったのは、株主が、役員たちでやっている経営をまともにチェックするシステムがなかったから、役員連中が勝手なことをやった結果、会社が傾いてバブル発生後の経済社会崩壊が起こったのだということであって、「長期的な経営をやってください」ということで経営者を野放しにしておくのは失敗だったのだというのがわれわれの経験だったのではないでしょうか。だからいま、内部統制のルールを一生懸命作っているわけで。あれは効果ありますよ。
で先生は続けて、「当然の成り行きで経費削減が経営者のモットーとなり、正規社員をできるだけ少なくし、経費が半分で済む非正規社員に頼ることが普通となる。その結果は500万ともいわれるニート、フリーターが出現した」「先進国中、最も安定していた我が国の雇用が、市場原理の名の下に壊されたのである」とズバリと指摘されておられます。
飯坂 うん、正規社員に比べて非正規社員の経費が半分で済むというのは、要は正規社員に対する不必要なフリンジ・ベネフィットが増えすぎたからということでしょう。
運営者 そうです。だから、無駄な部分をそぎ落とさないと、資本効率も見えないし、自分たちの会社が何をやっているかが見えないんですよ。
飯坂 社会主義みたいなどんぶり勘定の中に入ってるからね。
運営者 だから「長期的視点という金科玉条にしたがって、自分たちが金を出している企業体がどんぶり勘定の中に入ってアンコントローラブルになっているというのを放置しておくのはまずい」というのが、バブル期、ポストバブル期を経たわれわれの経験だったと思うんです。
飯坂 日本経済全体としても、個々の会社にしても、世界の経済発展にキャッチアップしていかなければ生き残れないんだけれど、藤原先生はそうしたことは考えなくても良いとおっしゃっているようですね。
運営者 ええ、やっぱり競争は置いておいて、その会社の中で仲良くやればよいということなのでしょう。
野中郁次郎先生が20年ほど前に、「プレジデント」の企画で真珠湾作戦立案者の源田実と対談して、「真珠湾攻撃が成功したのに、何で日本軍は航空主兵に変わらなかったんですか」と聞いたら、源田は「だってそんなことしたら砲兵が失業しちゃうじゃない」と応えたというんですよ。戦争の勝ち負けですらどうでもいいんですから。
あと、昔日産にいた人が、バブル前にサウジアラビアにキンキラキンにした高級車を15万台輸出してたらしいんですよ。「さぞ儲かったでしょう」と聞いたら、全然儲からない価格で輸出してたらしいんです。「なんでそんなことやってるんですか?」と聞いたら、「ローレルクラスが年15万台出れば、操業が確保できる村山工場は万々歳ですよ」とのこと。日本企業では、儲けがなくても問題ないんですよ。
飯坂 競争よりも国柄なんでしょうね。
運営者 「たかが経済」ですから。