農産物を完全自由化すると文化、芸術、科学が沈滞する 藤原正彦先生論文「国家の堕落」を読む
読書仲間 飯坂彰啓
運営者 それから藤原先生は先に進んで、「消費者とは国民の経済的一側面にすぎない」「消費者のためになることが、国民の他の側面を深く傷つけることもある」と書いています。
どういう意味かというと、米について取り上げられています。もし農産物を完全自由化すると、「日本農業は壊滅に瀕するだろう」「日本農業が壊滅すれば、我が国の美しい田園は荒廃の極みに達するだろう。美しい自然は日本人特有の美しい情緒、すなわち自然の繊細な美的感受性、ものあはれ、といったものの源泉だから、それらをも瀕死に追い込む」「国民は、荒れ果てた自然に囲まれ、文化、芸術、科学の沈滞した、物の値段だけが安い国に住むことになるのである」と深刻な警鐘を鳴らしています。
飯坂 「風が吹けば桶屋が儲かる」式ですね。
運営者 藤原先生は数学者だから、何手も先が読めるんです。そしてその推論には間違いはないはずなんですよ(笑)。
ひとつ言えるのは、日本の農業政策はコメの自給率だけは下げてないですよね。米はFTA交渉においてもネックになっています。そしてそれについては首相も自民党の人間も反対してるし、最も反対しているのは農水省ですよ。だからこれについてそんなに危惧する必要があるのかなと思うんですけれどね。
だから万一コメの自給率が下がるといろんなことがあって、最終的には芸術、科学が沈滞することになるのでしょう、きっと。ちょっと無理あるかなぁ(笑)。
飯坂 逆から考えると、情緒が芸術や文化、基礎科学の基盤だから、情緒が破壊されると文化や基礎科学が弱体化すると・・・うーん、まぁこれがひとつの公理だと前提におきましょう(笑)。そういう世界なんですよ。わかった。それで自然が破壊されると、情緒がひん死に追い込まれると・・・。
運営者 つまり山に緑があって、空気が澄んでいて、水がきれいだからこそ、情緒がはぐくまれるわけなんですよ。木を切ってしまうとそれがなくなるんです。
たぶん砂漠の民とかイヌイットには情緒がないと言いたいんでしょう。随分ばかにした話じゃないですか。中東の人たちは、春は短いけれど、その風趣を伝える詩を大切にしてるんだそうですよ。
飯坂 そうすると、美しい田園と美しい自然は、藤原先生にとってはイコールなんですか。
運営者 どうやらそうらしいですよ。田園って自然でも何でもないんですけれど(笑)。
飯坂 えーと、「美しい田園は荒廃の極みに達するだろう」・・・その前にさかのぼると、消費者のためになるようにすると、日本の農業は壊滅することになるわけですか。
運営者 中国や他の国から安いコメを輸入して物価を下げるわけですからね。
飯坂 なるほど、それで「食料供給国が異常気象に襲われたら価格は暴騰するだろう」「シーレーンが有事となったら、日本は瞬く間に飢餓列島と化するだろう」・・・んー、そういうことになるのかな?