基礎科学、文学、芸術の栄えている国こそが、品格ある国家 藤原正彦先生論文「国家の堕落」を読む
読書仲間 飯坂彰啓
運営者 そして話は展開して、先生は「そもそも、経済的視点を離れ、基礎科学、文学、芸術など経済繁栄の役には全くたちそうもない分野の栄えている国こそが、品格ある国家なのである」と書かれています。
ここで初めて直接的に、品格のある国家とは何かについての先生の定義の一端が現れます。たぶん数学は基礎科学の中に含まれるのでしょう、いや当然。
飯坂 基礎科学、文学、芸術が経済繁栄の役にまったく立たないというのは枕詞として適切ではないと思うけど、そういった分野が盛んであるということは、いいことには間違いがないでしょう。
運営者 そりゃそうだ。それはとてもいいことです。そして品格があると言えるかもしれません。だけど、そこまで経済を邪険にするのには、何か理由があるんじゃないのかなぁ。
飯坂 藤原先生は、恐れ多くも数学教育にかかわっておられる人のひとりであるから、数学そのものの魅力によって数学教育を富まさせてもらいたいものです。昔は数学は飯の食えない学問だって言われていたようだけど、今ではコンピュータサイエンスや金融工学の隆盛によって、理系学科の中でも卒業生の収入が高いほうになったと思うけど。そういう考え方は間違ってますかね?
運営者 それはご期待申し上げたいところですが、どうやらそうはならないらしいですよ。先生は以下のようにご不満を書かれています。
それだけではない、市場経済のためには「小さな政府」ということで、国立大学予算は毎年1%ずつ減らされている。とりわけ我が国における基礎科学研究のほとんどは国立大学が担っているから、今大変なことになっている。
いよいよ核心に入ってきましたね(笑)。
数学研究費などは2005年度までの7年間で30%も減らされ、いまではアメリカのなんと4%、フランスの10%にまでなっている。
私、これを読んでなんだか不思議に思ったのは、藤原先生は「なんでもアメリカ流を取り入れるのはけしからん」と言っていたのに、ここでは「数学の研究費だけはアメリカ並みにしろ」とおっしゃっているわけですよ。これはいったいどういうことなのかなと。
飯坂 ふむ。
運営者 不思議だ。なんでもアメリカ流を取り入れるのがよくないのであれば、数学の研究費をアメリカ並みに増やすのは間違っているのでは? 先生のおっしゃる通り、日本は国柄や美風を大切にして、あくまでも自主路線でアメリカの4%で行くべきですよ。アメリカにならうなんて、とんでもないことでしょう。
飯坂 それはまた別の問題でしょう。アメリカにも取り入れるべき点がいっぱいあるんですよ、きっと。
運営者 だってこの人、今までそんなこと一行も書いてないじゃないですか。この人が最初に言っていたのは、アメリカ帰りのエコノミストが、本質がつかめないまま、とりあえずは経済好調のアメリカを真似ようということで、日本のアメリカ化がすさまじい勢いで進行した、これはけしからんと非難してたんですから。
飯坂 それは日本の経済のアメリカ化が進んだわけであって、学問の世界はアメリカ化していいんですよ、きっと。
運営者 飯坂さん、理解がありますね。