市場主義者は我が国の高等教育を無法地帯にしようとしている 藤原正彦先生論文「国家の堕落」を読む
読書仲間 飯坂彰啓
運営者 じゃ次に行って、予算が減っているから「基礎科学の研究者を志す若者がいなくなってしまう。最も優秀な人材が、普通の人の何倍も努力を払って博士号を得ても、就職先もなければ研究費もないということになるからである」と続けておられます。
飯坂 予算がないから研究者になる人間が減っているというのはどうかなあ。研究室の大学院生に対する前近代的な徒弟奉公制度を長く続けてきたせいじゃないの。予算が少ないから博士号を取った人間の就職口が少ないというのはおかしいでしょう。アカポスがないから就職先がないと言いたいのかなぁ。
アメリカだったら博士号を取って民間企業に就職する人もいっぱいいるわけで。
運営者 たしかに、「研究ポストが少なく」と書いてありますからね。
飯坂 つまりポストを増やせ、予算を増やせという意味なのでしょう。
運営者 なるほど。それもやっぱり文部科学省に任せておけば、予算を増やせるということになりますか。
どうやら市場原理主義を攻撃する論文なのかなと思っていたんだけれど、「文部科学省の予算を増やして大学に研究費を渡せ」というのもここで重要な議論として登場してきました。
飯坂 官から民へというかけ声で、「官はダメ民はヨイ」というのはよくないと。国立大学は国立大学としてちゃんと養ってほしいということなのでしょう。
運営者 さらにその延長線上の話が書いてあります。
次の見出しですが、「厳重注意を受けた株式会社立大学」とあります。株式会社が大学をやるのはけしからんという話です。要するに、大学に設置基準があるのは、教育課程が適切に編成されているか、教官の数や校舎がちゃんと確保されているかといったことを専門家が審査するわけです。ところが東京リーガルマインド大学やデジタルハリウッド大学などでは虚偽の表示をして学生をだましていると指摘しています。
飯坂 なんか話がいきなりこまかくなってますね。重箱の隅をつつくような。
運営者 いえいえ、この人の場合は「私にとってとりわけ我慢ならないのが教育に対する口出しである」ということですから。とにかく「とりわけ我慢ならない」んです。
それで縮めて言うと、こういうエセ大学はいかんとおっしゃっています。そして、市場原理主義者は「学校は消費者の自由選択に任せるべきで、選択を誤って路頭に迷ったとしてもそれは自己責任」と言っていると指摘されています。
私は自己責任だと思いますけどね。だって別に、デジタルハリウッドが作った大学に入って、学士号はもらえなければ怒こりますけれど、それが世の中で通用するかどうかというのは、たいがい入学に要する努力に比例するわけで、入学した本人が一番わかっていると思いますけどね。それが市場ですから。
しかし彼はそういった現状を憂いてこう書いていますね、「市場原理に浮かれ、我が国の高等教育を無法地帯にしようとしている彼らの無責任は強く問われてしかるべきであろう」。