10年不況の責任の大半は市場原理至上主義者にある 藤原正彦先生論文「国家の堕落」を読む
読書仲間 飯坂彰啓
運営者 次に先生は、
ここ10年ほど、教育に対する改革案は主に経済人やエコノミストにより口火を切られ実行へと推進されることが多かった。経済回復のためには教育から、ということであろう。驚くべき料簡である。バブルに狂奔したのも、それを破裂させ日本経済を崖から突き落としたのも、不況を10年以上にわたって長びかせてきたのも、責任の大半は彼等にある。不況の真因も明らかでないのに、アメリカの要求通りにやみくもの改革をし続けたせいでもある。
と、口を極めて論難しておられまれます。
飯坂 経済人といってもいろいろいるからね。土建屋だって経済人だし。土木屋と医者が自然科学研究予算を食ってしまっているといえるかもしれない。
運営者 土建屋の責任は、僕は重いと思うけど、でも土建屋に言わせてみれば、「ツバメの子供が親鳥が餌をくれるのを口を開けて待っていたとして、親鳥がエサを取ってき過ぎたとしても、その子供に罪はあるのか?」と言うでしょうね。
飯坂 (笑) かなり大きくなっても、口を開けて待っているだけなんですけど。
運営者 バブルが発生した原因は、多くの人が穏やかな心で生きていける日本の国柄によるものなのではないのでしょうか?
飯坂 バブルは楽しいし、他人のまねをしていればうまくいくように思えるからね。それに国柄の破壊というけれど、そういったバブルのような断層は過去にいくらでもあったはずだし、少なくとも戦前戦後の間には大きな断層があるし、江戸開幕とか、明治維新とか。それをいちいち国柄を破壊すると言って大騒ぎするというのもおかしいじゃない。
運営者 まったくその通りですよね。それを乗り越えるくらいの力強さのない国柄だったら、意味がないし必要ないですよ。
飯坂 乗り越えるというよりは、国柄なんてそんなもんだと思いますよ。
運営者 確かに! そう認識するべきでしょう。「国柄は不変である。金甌無欠、金城湯池、金科玉条」と考えて、そこから考えをスタートするのは明らかにまちがってますよ。進歩を否定する姿勢です。
それから、日本経済を崖から突き落とした責任は、果たして本当に経済人だけにあるのかということははっきり言っておかなければならないと思うんですよ。先生は、自分には罪はまったくないと言いたいのでしょうが。
こここで「不況の真因は明らかでない」と白状しておられるように、藤原先生のようなタイプの人には、不況の原因はわからないと思いますよ。それは、先生のような発想が不況の真因をつくった当事者に共通するものだからです。
つまりね、10年不況に陥ったのは、私益のために市場を歪める人たちがいたからですよ。そういう人たちは藤原先生同様に権威主義的で退嬰的な連中です。彼らは、独特の「国柄」を楯にしたり、「よほどの人物」であるという地位を利用して守旧派をやって私腹をひたすら肥やしていたんです。その連中が10年不況の真犯人であり、彼らは倫理的見地からは「悪」ですよ。役人の中にそういうのも沢山いて、そいつらが日本経済にぶら下がって引き倒してしまったんです。特殊法人のトップなんて、未だにそうです。そいつらの総括粛正こそやるべきことでしょう。穴蔵から引きずり出して、シニョリーア広場で火刑に処すべきです。
藤原先生自身はそうした経済戦犯ではない。そういう人が、戦犯たちにとって都合のよい屁理屈を展開し、その尻馬に守旧派共が乗っているというのが問題を複雑にしています。警戒すべきことです。
経済人やエコノミストは、本来は自分たちの仕事ではないにもかかわらず、むしろ不況の真因は、「日本にはカネより大切なものがある」などといった、理解しがたい理由を持ち出して盲目的に旧套=自分たちの利益基盤を墨守する、頑迷固陋な旧日本体質にあるとわかったから、「このままこいつらに任せておいたら国が潰れる」というので渋々立ち上がったんです。経済人の政策提言は、貴重な社会参加だととらえるのが筋でしょう。
でも、藤原先生の経済人に対する容赦のない攻撃はさらに続きます。これって奥ゆかしい態度なんでしょうかね? わたしにはとっても盗人猛々しいように見えるのですが。
その責任を自覚し謹慎するどころか、むしろ糊塗するがごとく、次々に政策提言をこの十年余りし続けている、市場原理の追い風を背に、官から民や、官製市場の民営化、民間開放などと「民」を標榜し、民のためを装いつつ、自らのビジネス拡大を図ってきた。国家よりビジネスである。
藤原先生ご自身は国家国益についてよくよく考えているが、ビジネスマンは自分のビジネスしか考えていないからケシカランということのようですね。
しかしわたしから見ると、「国柄」を楯に改革に抵抗してきた連中こそが責任を自覚して謹慎するべきであって、今さらなぜのこのこ出てきて論陣を張っているのか、全くもって理解に苦しむところです。市場主義の正当性は証明されたんだから。あんたらは表舞台から去れと思いますね。「国家よりビジネス」で商売が成り立つなんて、市場主義のイロハのイの字もわかっていないという、いい証拠ですよ。